仙台高等裁判所 昭和61年(ラ)75号 決定 1987年1月14日
抗告人
岩信興業有限会社
代表者代表取締役
藤咲光夫
代理人弁護士
田中洋平
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一本件抗告理由の要旨は、原決定添付別紙物件目録記載の土地・建物(以下本件土地・建物という)につき一括して定められた最低売却価額の基礎となつた評価人掘内慶助の昭和六一年七月一四日付評価によると、本件建物につき建物自体の査定価格六七三五万八〇〇〇円、使用借権相当額一二五六万二〇〇〇円と評価しているが、これは本件建物の建築工事費用額一億六五〇〇万円、固定資産評価額九三七七万一三〇〇円に照らしてあまりに低廉であり、右評価額に基づいてなされた最低売却価額の決定には重大な誤りがある、というのである。
二よつて判断するに、執行記録によると、執行裁判所は、昭和五六年七月一七日付現況調査報告、同年九月一八日付評価(本件土地の評価額七六〇一万九二〇〇円、本件建物の評価額九八一〇万四〇〇〇円)に基づいて本件土地・建物につき一括して最低売却価額を一億七四一二万三二〇〇円と定めたうえ、同年一〇月二九日から昭和六〇年二月二三日まで八回にわたつて入札・開札期日を重ねたが買受の申出を得られなかつたこと、そこで昭和六一年一月二〇日改めて本件建物につき再評価を命じ、評価人堀内慶助は同年三月三日から同年五月二〇日まで四回の現地調査をしたところ、債務者兼所有者である抗告人の協力が得られなかつたために店舗部分の賃貸借関係を正確に把握できないという制約のもとで作業を進め、同年七月一四日本件建物につき七九九二万円(物件の査定価格六七三五万八〇〇〇円、使用借権相当額一二五六万二〇〇〇円)との評価額を出したので、右評価額に基づいて執行裁判所は本件土地・建物につき一括して最低売却価額を一億四三三七万七二〇〇円と決定したうえ期間入札による売却を実施し、同年九月二九日東和商事有限会社に対して本件土地・建物につき上記金額による売却を許可した事実が認められる。
三ところで固定資産評価証明書によると、本件建物が九三七七万一三〇〇円に評価されていることが認められるから、右金額と比べて本件土地・建物の一括最低売却価額一億四三三七万七二〇〇円というのはいささか低額の感を拭えないのであるが、しかしながら二項認定の経緯のもとで執行裁判所が前示最低売却価額を決定するに至つたのはまことにやむをえないものがあり、その裁量的判断に誤りは認められない。そうすると執行裁判所が本件土地・建物につきなした最低売却価額の決定には重大な誤りがあつたとはいえないから、抗告理由は採用できない。
よつて本件売却許可決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却する。
(裁判長裁判官輪湖公寛 裁判官武田平次郎 裁判官木原幹郎)